甘いお話
むた (2005/10/03(Mon) 20:42:04)
第1章
「むた君、どうしてそう不機嫌なの?」
婚約者のクミコが不思議そうな顔をして聞く。
「だから、むた君はやめろって・・・。」
苦笑しながら私が返す。原因は別にあるのだが。
「ところで、ダイエットすると力説してたこの間の誓いはどうなった?」
「してるわよ。あなたの最近いとおしくなってきた下腹よりやせるよう努力してるわ。」
「それで、どうして今日のデートがホテルのケーキコンテストになるんだよ。」
全く、大らかさにはなんと言っていいかわからない。
「仕方ないわよね。おいしんだから。」
並べられたケーキバイキンクを口に入れながら彼女は開き直る。どうやら決意は先延ばしのようだ。友人のイワに言わせると「ダイエットの繰り延べ」ということになるのかもしれない。
「ところで、このコンテストの上位者3人と去年の優勝者がここで数日かけてケーキ作ってるらしいわね。」
「ほほう。で、コンテストに出品されたケーキは観客が食べて採点するんだな?」
「そうよ。」
・・・・わかりやすい子だ。そのとき、一人の女性がおずおずと私たちに声をかける。
「あの・・・もしかしてクミコ?」
「あ、チカ!久しぶりね。そういえば、あなたのお父様はここの支配人さんでしたっけ?」
「うん。久しぶりね・・・こちらはもしかしてよく話していた婚約者の刑事さん・・・?」
「初めまして。」
チカという女性の沈んだ様子をいぶかしく思いながらも私は肯定のうなづきを返す。
「あの、お願いがあるんです。助けていただけますか?」
なにやらわからないままに私はうなづいた。
第2章
「勝手に入ってくるなと言ったろう。・・・ああ、お前か。」
何とも芝居かかった声でチカの父親とかいう支配人が、声を出す。私が自己紹介すると彼は大仰な身振りで話し出した。
「警察の方ですと?事を表ざたにされては困ります。ケーキコンテストは当ホテルの目玉なのですからな!」
その身振りを見ていると彼のタキシードと蝶ネクタイまで滑稽に見えてくる。彼は天性のコメディアンと言えるだろう。彼の前にはうんざりした顔の4人の男女が立っている。彼らはケーキコンテストの参加者だとチカが耳打ちをする。
「プライベートで頼まれただけですよ。どうされました?」
「見てください。脅迫状です。」
そこには定規で線を引いた字で「コンテスト中止せよ。さもなければどうなっても責任は取れないぞ。」と書いてある。筆跡をごまかすためだろう。ご苦労なことだ。
「いたずらです。こんなことで辞退も中止もするべきではありません。」
タカクワという40前後の気の強そうな男が主張する。
「全くです。ここ数日の努力が無駄になります。」
若いヒラタという女性も同意する。
「むしろガードをしっかりすることでしょう。要は被害がなければいいのですから。」
穏やかにウメザワという若者が言う。この中では少々影が薄く見える。黙っているのはチャンピオンのマツオだ。70前後の品のいい男だ。彼は海外のコンテストでも入賞するなど実績ナンバー1だと言うことらしい。
「みなさんがそういうならば・・・。」
支配人はしぶしぶ呟く。彼としても辛いところだ。
第3章
出場者全員が作業部屋に戻る。作業部屋はホテルの奥のどん詰まりにある。出入り口は一つ、そこにつながる通路も一つしかなく、その狭い通路には頑固そうなガードマンが陣取っている。
「あの作業部屋に行くには私の目を掠めていくことは不可能ですな。」
ガードマンは胸を張る。私は出場者たちと一緒にガードマンの横を通ろうとして手をつかまれた。
「身体検査を受けていただきましょうか。それから入るときは白衣とマスクをつけてください。」
彼は私の体のあちこちを触っている。部外者だから仕方ないかとあきらめる私。時間がかかることを予測してか、出場者たちがめいめい部屋に戻る。部屋に入ったそのとき、マツオの部屋から悲鳴が上がった。
「早くしろよ。」
身体検査を繰り返すガードマンに私が声をかける。ガードマンもある程度で切り上げると私たちは急いでマツオの部屋に飛び込んだ。
「うわ!」
入って私たちはいっせいに声をあげる。マツオが呆然とした顔でへたり込むその前にキャスターつきの台の上に多数のケーキの切れ端が散乱している。ケーキ一つ一つの形はパイナップルを縦に切ったような形をしている。ケーキの切り口の断面はまっすぐだ。切り口は固くなっている。声を聞いてたの出場者たちや支配人もやってくる。そして一様に驚きの声を上げる。
「なんてひどいことを。」
目に涙をためて呟くヒラタ。
「犯人は誰なんですか!」
タカクワが当り散らす。
「おい、お前ここを通った人間はいなかったのか!」
支配人が例の調子でガードマンに言い寄る。
「出場者のほかには支配人が通っただけですな。」
ガードマンが憎まれ口を返す。全くアヒルとガチョウが喧嘩しているような騒ぎだ。
「少し静かにしてくれ。」
私は言うと頭を整理した。脅迫状、ケーキ、切り口・・・何かが見てきそうな気がしていた。
問題:ケーキを切ったのは誰か。それはどのようにして行なわれたのだろうか?
refrain (2005/10/04(Tue) 19:51:30)
むたさんこんばんは!
>切り口は固くなっている。
この事から犯行から時間が経っていると思われます。
脅迫状の犯人と別の犯人がいるとは考えにくいので証拠はありませんが
同一人物とみます。
そうなると脅迫状によって中止になったかもしれないのに結論が出る前に
ケーキを切るという犯行に及んだ事になりますがこれは不自然です。
つまりこれはマツオによる一人芝居。
あらかじめ部屋を荒らしておき決行か中止かを決める会議に出て、中止なら
部屋を片付けるだけ、決行に決まったので悲鳴をあげた。
以上、いかがでしょうか?
むた (2005/10/04(Tue) 21:21:53)
そのとおりです。
後は何で切ったかを答えてくれれば解決編に行きます。(^^)
むた (2005/10/05(Wed) 12:39:54)
「何で」というのは道具のことです。説明ミスですね。すいません。
refrain (2005/10/06(Thu) 00:37:40)
むたさんこんばんは!
>説明ミスですね。
いえいえ通じてましたから大丈夫ですよ。(^^)v
別にこれを使わなくても・・・というような疑問は解答編を見れば解ける
でしょうからここは素直に、「脅迫状を書くのに使った定規(のような物)」
で、お願いします!
むた (2005/10/06(Thu) 05:00:32)
定規は考えていた答えとは違います。
これを使って多数の切れ端を作るのは大変そう・・・(^^;
むた (2005/10/06(Thu) 21:11:16)
停滞しそうなので、ヒントです。
・・・トコロテン。
むた (2005/10/07(Fri) 17:50:43)
やっぱ停滞したなー(−−;
何とかならんものかね、ママン。
ルナ (2005/10/07(Fri) 19:41:08)
むたさん、こんばんは。
某スレでは、歩尼○美さんについ便乗して、あんな暗号を出してしまって
誠に申し訳ないです。
さて、本題ですが、
何の道具を使ったのか考えてはいるのですが、
>ケーキ一つ一つの形はパイナップルを縦に切ったような形をしている。
これがどんな形なのか、まったく想像できないです…OTL
ですが、
>・・・トコロテン。
というヒントから、それに連想(?)した道具(?)をお決まりの
『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』戦法で答えたいと思います。
・扇風機のカバー
・入れ歯
・ワイヤーみたいなもの
・中が空洞の筒みたいなもの
…形状がバラバラですね。しかも半分ボケているような回答…。
やっぱり、ケーキの切り口がどんなのかを頭にくっきり思い浮かべることが
できないと、何の道具を使ったのかを導き出すのは不可能ですかね?
refrain (2005/10/07(Fri) 19:57:02)
むたさんこんばんは!
問題文からひろえるのかと検証してましたが見つけきれませんでした。(^^ゞ
トコロテンのヒントからすると魚焼き用の網に横棒がはいったような物?
で良いのでしょうか?
むた (2005/10/07(Fri) 20:36:05)
いえいえ、これは私の説明が不足でした。考え方としてはお二人とも正解です。
一応考えていたのはピアノ線(refrainさんの魚の網はこの考え方ですね)か何か細くて硬くて、丸められるものを壁その他に固定して自転車の車輪のホイルのような形(ルナさんの扇風機のカバーはそういう形ですね)にし、そこをキャスターのついた台に乗せたケーキを通過させるというものでした。一応、何日もかけてケーキを作ることや不特定のお客さんに審査のためにケーキを配ることから昔のウエディングケーキのような大き目のケーキを作ったとお考えください。
ここからは言い訳です。それを書かなかったのはケーキが硬くなっていたと書いたようにマツオさんは前日のうちに自分のケーキを切って道具は家に持ち帰ってしまったからです。(ガードマンさんがパディシエたちを身体検査しないことが文中から読み取れると思いますがいかがでしょうか?)
そんなわけで解決編に続きます。(にしても不調だなこの問題。)
むた (2005/10/07(Fri) 20:59:22)
マツオ氏は一人で会場で三人のケーキを食べ比べている。その背中は心なしか寂しげだ。
「犯人が見つかりましたよ。」
マツオ氏は顔を上げる。
「支配人や彼らにも伝えました。」
「そうかね。なんていってたかね?」
「非公式でいいからぜひ一度お願いしたいと・・・。」
「そうもいくまいよ。あんなことしてはな。・・・あの子達の作品は見事のものだよ。もう私には勝てん。」
寂しげに呟くマツオ氏の視線の先の壇上では三人のパディシエたちが緊張した面持ちでケーキを食べる面々を見守っている。
「こうなってみると、結果はどうあれ出場したほうがよくなかったですか?」
「そうだな。そうかもしれんな。」
マツオ氏は苦笑いをする。
「しかし、どこでおかしいと思ったのかね?」
「まずは脅迫状ですね。僕ならパソコンで打ちます。あんな定規で字を書くような手間隙はかけません。プリンターも漫画喫茶で打ち出せば特定は不可能でしょうし。」
「やはり、古かったようだね。」
彼の声は穏やかだ。
「ケーキも運ぶ途中に落としたほうがよっぽど怪しまれませんよ。・・・やっぱり台の上から落とすのは抵抗がありましたか?」
氏はうなづくと壇上に目を移す。
「いい顔してるな、あの子達。」
私も壇上に目を移す。
「やり遂げたっていう気持ちと、どう評価されるかという緊張感が混ざっている。・・・なかなかあの時間は気分がいいものだよ。」
彼はいたずらっぽく笑う。私もつられて笑い出す。
「出頭は明日でいいかね?」
氏の質問に私は困ったように言い返す。
「それがですねー。・・・いくら探しても自分のケーキを自分で切った罪は見つからないんですよ・・・。」
氏はうほっと笑う。
「脅迫状は?」
「・・・ああ、さっき支配人が『ついうっかり』タバコを吸おうとしたときに燃やしてしまいましたよ。」
「例の調子でかね。」
「あなたの演技のほうが上でしたね。」
「自慢にもならんな。」
私たちの間にどちらからともなく微苦笑が広がる。
「わざわざそれを伝えに来てくれたのかね?」
「いえ、苦情を一つ。あのケーキを私の婚約者がえらく欲しがりましてね。」
「勝手にもっていけばいいじゃないか。それがどう苦情とつながるんだ?」
「そうですか。おかげでダイエットはまた延期です。」
クミコが少し先から私を見ている。目はちょっとけわしめだ。
(エンディング曲:「ピアニッシモにしよう」鈴木彩子)
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