どこにも帰らない
むた (2005/04/21(Thu) 00:48:14)
この間、実家に帰ったら私の高校時代の創作ノートが出てきました。
懐かしさと恥ずかしさとともに思いっきりアレンジして書いてみます。
問題としては簡単でしょう。むしろ解答を早く書きたい気分です。
多分楽しめるのは僕だけでしょう。^^;では。
第1章
裁縫とは不思議な魔法のようだ。元は布、糸、ひも、皮そんなありふれたものたちが集まり折られ形を変え全く新しいものへと姿を変える。私は今そんな妙技とも言うべき展示品たちを見つめている。
「トモロウとヒナコのキルト展」
それが今、私がいる展示会だ。とはいえ飾っているのはキルトだけではない。だが見ているのは私一人だ。
「興味がおありなのですか?」
主催者らしき青年が声をかける。私はその青年の美貌に軽い嫉妬を覚える。青年はそれにかまわず説明を始める。
「これらの作品の面白いところはその多様性です。たとえば、このバッグは多くの布でできています。」
それは多くの細かい布が合わさって一つの布を構成し、そして折り方と縫い方を工夫して頑丈な一つのバッグとなっている。一見二枚の布を重ねたように見えるが、実は一枚の布だという。
「たいていは一枚の布を布団をたたむように三つ折にして作ります。これは似ていますが、一枚の布の上に端切れを縫ったものですね。タイル張りのような感覚です。」
私の目は輝いているのだろう。彼の説明に熱がこもる。
「これは?」
見るとバッグに男性が砂浜に座っている姿が映っている。顔はわからない。
「私です。写真をパソコンに落としてから布に印刷をしました。誤解しないでください。作ったのは僕ではないですよ。というより今日展示している品は僕の作品は一つもありません。明日が僕の作品を飾る日なんです。」
青年トモロウは苦笑する。ほかにもリュックやテーブルクロス、ブックカバーなど様々な作品たちが私を歓迎する。
「少しお時間ありますか?よかったらお茶でも。」
断る理由はなかった。
第2章
「私がこれらのキルトを作るようになったのは今日の作品の作者ヒナコの影響なんです。ヒナコは私の恋人でした。」
私は席について紅茶の香りを楽しんでいる。ふと見ると、テーブルの上に写真がのっている。いたずらっぽい目が魅力的な美女だ。
「彼女は3年前病気で亡くなりました。・・・一つの謎を残して。」
彼はもう一枚の写真を見せる。それは自画像のようだ。
「彼女が自ら刺繍で縫った自画像です。半年かけて縫ったそうです。この顔を隠したから見つけてくださいといってました。思えば、己の死を知って何かを残そうとしたのでしょう。」
「見つからないのですね?」
「ええ。・・・彼女の作品はすべて彼女が作ったときのまま残してあります。ですがこの作品だけはどうしても見つからないのです。」
青年の顔はさびしげだ。だがその反面陶然として見えるのも事実だ。
「手がかりはこれです。この言葉が唯一の手がかりなんです。」
彼は手紙を出す。手紙にはこう書かれている。
『太陽は明日とともに。いつも一緒にいられるように。』
「思えば、これは彼女の最後の願いだったのかもしれません。このせいで私は彼女をいつまでも覚えている。目を閉じればいつだって一緒にいられるのですから。」
彼の陶然とした表情に私は再び嫉妬をする。ある意味、彼は彼女が生きていたときよりも幸福なのかもしれない。
私は迷っている。私は事実を伝えるべきかどうかと。それは確実に彼の陶然とした時間を奪うことになるだろうから・・・。
問題:彼女の自画像はどこにあるのだろうか?
refrain ◆sjBprDcA (2005/04/21(Thu) 01:31:45)
むたさんこんばんは!
>むしろ解答を早く書きたい気分です。
とあるので遠慮なく行かせて頂きます!(^^♪
太陽(日向子)は明日(トモロウ→tomorrow)とともに。つまり
>バッグに男性が砂浜に座っている姿が映っている。
これと一緒に縫いこんである。
>一枚の布の上に端切れを縫ったものですね。
この端切れの部分かな?(縫い物の事は想像つきません^_^;)
答えはヒナコが縫ったバッグの中でいかがでしょうか?
むた (2005/04/21(Thu) 22:46:08)
文章読んでくれてありがとう。
正解です。長い文章打つのは疲れるので解答編はまた明日。
ではまた。(^^)ノ
TK4 (2005/04/22(Fri) 20:52:59)
どもです〜♪久々に参上TK4です。
男性の書いてあるバックの布も、前述の説明の様に三つ折りにしているのであれば、その裏面に隠れているのでしょうねぇ。。
むた (2005/04/22(Fri) 21:36:42)
「私を一人にしないで 一人にするなら私を愛さないで♪」(鈴木祥子「BLOND」より)
第3章
「では、この裏に彼女はいるのですね。」
彼は自分が映るリュックを手に取る。そして慎重に縫い目をはさみで切っていく。心なしか手が震えている。
「緊張します。何かタブーを犯しているような気分です。」
彼は呟く。私は迷う。これは本当に彼のためになっているのだろうか?そう思っている間にも、はさみはリュックを再び一枚の布に変える。
布を広げる。そこには写真で見た彼女の自画像が現れる。
「きれいだ・・・。」
私は呟く。それは造型だけではない。それは魂そのものに見える。彼女はこの自画像を縫うのに一針ごとにその魂を縫いこんだのであろうか。それにしても彼の姿と自画像との間はなんと遠い。同じ布の中なのに・・・。
布の間から手紙が落ちた。彼女の遺言だろうか。彼の目が字を追っている。
「ヒナコ・・・君は見守ってくれていたんだね・・・。」
彼は涙を流す。手紙が彼の手から落ちる。私はそれをみて背を向ける。たまたま見えた彼女の手紙の最後の文句が胸を刺す。
『あなたが私を見つけることを望んでいます。そしてあなたが見つけてくれないことを願っています。』
私の背中で彼が音もなく泣いているのが伝わってくる。部屋の中に私の靴の音だけが響いている。コツコツコツコツコツ・・・・・。
むた (2005/04/22(Fri) 21:37:35)
TK4さん。大正解です。ご参加ありがとうございました。
またよろしくお願いします。
siu (2005/04/23(Sat) 03:43:23)
もう済みになって残念ですが、すばらしい文才ですね!
つい引き込まれてしまいました。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実在に存在するものを示すものではありません。