緑の中を走り抜けてく真っ赤な車

Ａｐｏｌｌｏ　(2003/03/16(Sun) 11:32:38)

　どうもこんにちは。予告どおり長編です。長編ですので彼等の話なんですが、今回は以前とは少々形式が異なります。まあ、大した違いはございませんが。ちなみに彼等の話としては、確か１１話めだと思います。
　今回は暗号の無い犯人当てです。難易度としては、自分ではよく解りません。おそらくめちゃくちゃ簡単か、かなり難しいかのどちらかだと思います。
　では、どうぞ。
　　　　　　　　　　●
　改札口の駅員達に頼んでホームに下りると、僕は電車を待った。ガソリンを必要とする車はいつもの車より遥かに楽だ。だが車に今日ガソリンを入れるのはどうも勿体無い気がして、電車にしたのだ。
　宮沢比呂志、21歳。僕にはこれから行かなければならない場所があった。
　と、僕と共に電車を待っていた駅員が尋ねてくる。
「今日はどちらへ？」
　僕は笑顔で答える。
「現場検証へ。一昨日の夜、隣町の公園で殺人事件があったことはご存知ですよね？　僕は容疑者の一人なので、任意ですが呼ばれたんです」
「あなたが？」
　駅員が目を丸くしたが、僕の姿を見てすぐに微笑する。
「ご冗談を」
　彼は笑ったが、僕が容疑者であることは冗談ではなかった。
　――プラットホームに滑り込んできた電車が止まる。そこから降りてきた人々が僕を無視して改札へと殺到していった。

　隣町に着いた僕は、公園を目指した。公園は駅から程近い場所にある。
　その道程で、僕はたむろする柄の悪そうな若者達と遭遇した。以前の僕なら足早にその場を去っただろう。だが今はそうもいかないので、僕はややうつむいて彼等の傍を通り過ぎた。通過した僕の背後から、彼等の中の誰かが笑う声と、それを諫める声が聞こえた。
　やがて僕は公園の駐車場に着いた。公園は勾配の緩やかな丘になっていて、この駐車場より少し上に行った所に自動販売機とベンチがある休憩スペースがある。そこが事件現場だった。駐車場からそこへは、直結になっている階段と、遠回りだが自然の中を歩ける遊歩道とがある。
　階段と遊歩道の入口はほぼ同じあたりにあった。その近辺が駐車場の一部も含め、黄色のテープでくくられている。テープの傍らには、制服警官が二人。どうやらあのテープは進入禁止を表しているらしかった。つまり、あの先が事件現場だということだ。
　車の殆ど無い駐車場では、僕と同じくらいの目線の子供達が、ボールを追い掛け回して遊んでいる。その姿を、僕は少し眺めていた。だが、すぐに現場を目指し始める。
「手伝いましょうか？」
　背後から声。止まって首をそちらに向けると、女性が僕を見下ろしていた。子供達の一人の母親だろうか。
　僕は彼女に微笑み掛ける。
「ありがとうございます。でも、自分で動かないとなまってしまうので」
「あ、そうですか」
　女性は『差し出がましくてすみません』と言わんばかりに苦笑して、僕から離れていった。
　僕は両方の二の腕を手で軽くほぐすと、現場へと向かった。
　テープに近づくと、警察官の一人が僕に話しかけてくる。
「失礼ですが、この先は進入禁止です。引き返して下さい」
「僕は宮沢比呂志です。この事件の容疑者として呼ばれました」
「あなたが？　そうですか。では、どうぞ」
　警察官がテープを上に引っ張り、僕はその下をくぐった。

　休憩スペースには四人の男女がいた。いでたちからして、二人が刑事、残りの二人が僕以外の容疑者のようだ。
「…………っといてよ。そういうあんたこそ、――あら」
　四人の中の唯一の女性が僕に気付き、視線を送ってきた。年齢は僕と同じか少し上くらいだろうか。艶やかな髪を背中まで伸ばす、釣り目の美しい女性だ。
　その隣にいる刑事は僕より少し年下に見えるので、まだ少年と呼べるかもしれない。色素の薄い髪の、どこかあどけないが端正な顔立ちの少年。今朝ここに来るように電話で告げた刑事が彼なのだろう。電話越しの声は、どこか幼さが残っている声だった。
　その少年が声を掛けてくる。
「あなたが宮沢さんですね？　どうも、僕は相沢圭介巡査です。彼女は柊玲奈巡査長です」
「わざわざごめんなさいね」
「あ、いいえ。ところで、あちらの二人は？」
　僕はベンチに座っていた二人を見ながら尋ねた。スーツ姿の恰幅の良い壮年の男性と、詰襟学生服姿の目つきの悪い少年が、離れて座っている。
「被害者の、つまりあなたの友人である君島悦郎さんの父親と、教育実習先の高校の生徒よ。父親が君島芳郎さん、生徒が田辺大樹くん。で、死体の状況から考えて、これは物取りじゃなくて怨恨殺人。それで彼の知人を洗ったところ、彼等とあなたの三人に容疑者が絞られたの」
「さて。全員揃いましたので、軽く検証をしましょうか」
　少年刑事の相沢が言うと、柊が彼を横目で見る。
「軽く？」
「はい。軽く、です。柊さんも犯人の目星はついているでしょう？」
「まあ、さすがに今回ばかりはね。――じゃあ集まって下さい」
　柊が呼び掛けると、ベンチにいた二人が歩いてこちらに近づいてくる。田辺の方は、右足を少し引きずっていた。
「おせぇんだよ。さっさと帰らしてくれんじゃねぇのかよ」
「顔が歪んでますよ」
　田辺が同年代らしき相沢にメンチを切ったが、少年刑事は余裕の微笑で受け流した。
　相沢が芳郎に向き直る。
「では検証の前に、もう一度アリバイの確認からしましょうか。君島さん、一昨日の午後九時半頃はどちらに？」
「あ、はい。私はその日の九時前、以前に不整脈と診断されましたので、大学病院に検診してもらいに車で家を出ました。ですが病院の入口に、その日の外来の診察が終了したと看板が立っていましたので、すぐに帰りました。家に着いたのは十時前、この一時間、誰とも会ってません」
　まだ寒さの残る季節だが、芳郎は額の汗を拭いながら答えた。
「つまり、犯行は可能という訳ですね。ではあなたは？」
「黙秘ー」
　田辺がすかさず小馬鹿にするように答えたが、やはり相沢は微笑する。
「確か電話で『夕方から午後十一時まで繁華街にいた。一人で適当にぶらついていたのでアリバイは無い』と答えてましたよね。足をくじいているようですが、そんな足で出歩いていたんですか？」
「悪いかよ！　知ってんなら訊くなっつーの！」
「ごもっとも。でもこれが仕事ですので。さて宮沢さん、あなたは？」
「僕は家でテレビを見ていました。一人暮らしですので、アリバイを証明できる人はいません」
「そうですか」
　相沢が僕にも微笑を見せた。
「じゃあ検証を始めます」
　柊が言い、自動販売機の前の大きな血痕を見やる。血痕の周囲には白いチョークで線が引かれ、『１』のプレートが立てられている。
「被害者はあそこに倒れていました。死因は腹部と胸部を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死。凶器は見つかっていません。――では、こちらへ」
　柊が階段の頂上へと先導した。そこから下の駐車場が見える。階段の両脇には、電灯が二本ずつ立っている。
　階段の脇には同じく駐車場に続く遊歩道があるが、そちらは木々の中を通るゆるい坂道で、駐車場へは階段に比べて遠回りになっている。その遊歩道に点々と血痕が残っており、周囲に線が引かれ、数字の書かれたプレートも立てられていた。
　柊が言う。
「犯人はこの休憩スペースで被害者を殺害した後、遊歩道を通って駐車場に行きました。血痕が駐車場で途切れていたことから、そこで車に乗ったと推測されます。――さて、ここで疑問が一点」
　柊が容疑者一同を見回し、言葉を続ける。
「事件当時は夜。但し階段には電灯があり、暗くて見えないということはない。昨夜アタシが実際に歩いてみたけど、明度は十分だったわ。で、駐車場に下りるには階段の方が早い。なのに犯人はわざわざ遠回りの遊歩道を選んだ。何故か。それはおそらく、――犯人には階段を下りることが不可能だったから」
　相沢が容疑者の中の一人を見つめ、微笑する。
「もう皆さんにもお解りですね？　この事件の犯人は、あなたです。そしておそらく、あなたは今も被害者殺害の決定的な証拠を所持しています。少々調べさせてもらっても構いませんか？」
　　　　　　　　　　●
　以上です。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
　解答方法についてですが、失礼かもしれませんが他に良い案が無いので、こうします。犯人が解った方は、『階段を下りること』以外で、犯人にできないことをお答え下さい。ちなみに『階段を上ること』という解答は当たり前すぎるので、無しの方向で。
　それではよろしくお願いします。


『車を運転すること』
かな？


お久しぶりです。
（本当に久しくなってしまいましたが（＾＾；憶えておられるでしょうか）

「自転車」とかですかね。
なんか見当違いのこと言ってるかも・・・




例えば・・・その状態のままで、自分の身長より
１５センチ高いところにあるボタンを手で押すこと。


飲酒・・・かな？


ジャンプする事ですか？


Apolloさん、皆さん、こんにちはー。

タイトルを見て鼻歌まじりだったのですが
読んでたらちょっと切なくなりました。

では『ハイ・キック』で。


ジャンプ？だと・・・。

長いですね。凄いです。リスペクト！＾ー＾！


山口百恵が大好きなchakoriです。（青春時代ではありません）
『愛車にガソリン満タン』でお願いします。


反復横とびとか、シュートとか、水泳のバタ足？
紛らわしいなあ・・・いつもの車から立ち上がって降りること。



「空気いす」でお願いします。
証拠の方は考え中です‥。


ひざを曲げること。そして、ズボンの中に凶器が・・・。


　殆どの方が正解しているようですね。問題に関してお叱りの言葉があるかなと思いましたが、今のところ無いようなので少し安心しました。
　どうでもいいことですが俺自身の『できないこと』の解答例は、地団太を踏むこと、です。
　ところで正解者の皆さん、逆に質問させて下さい。本文の何行目あたりであのことに気付いたんですか？　一度読んだだけですぐに気付きましたか？　今後の問題作りの参考にしたいので、是非とも訊かせて下さい。まあ、次の出題がいつになるかは未定ですが。

　もう暫くこの問題は『済！』をせずに残しておきます。証拠を探している方もおられるようですが、犯人が特定できたなら、証拠も見えているはずですよ。
　それでは。


Ａｐｏｌｌｏさん、楽しい問題をありがとうございました。
私が「あのこと」に気づいたのは、問題文の27行目辺り…でした。




どもども

んー、微妙な感じですね。
問題文については全く文句がありませんが
「解答方法」がちょっと気になります。
※気にしすぎですかね？

なので、解答はしません。ご容赦を。ｍ（＿＿）ｍ

１２行目ぐらいで気がつきました〜。ｄ（＾　＾　）


あっているかわかりませんが、血痕は凶器から血が垂れて
ついたか、または犯人の体の一部についていた血が移って
ついたかだと思うのですが、凶器を持ちながらあれを
こぐのはちょっと難しいと思ったので、後者が原因と考え
ました。
その場合、犯人の体（？）の一部が地面と接しているのは
タイヤしかないかな、と思うので、証拠は「タイヤの血痕」
でよろしいでしょうか？血痕が規則的に付いていれば確実
なんですがねえ‥。
＞あなたは今も被害者殺害の決定的な証拠を所持しています。
とありますが、強引に「所持」ということで‥。

表現が露骨すぎますが、他にうまい書き方が思いつきません、
スミマセン‥（＾　＾；）

最初にふと疑問に思ったのは、
＞改札口の駅員達に頼んでホームに下りる
という表現だったのですが、主人公は何人かの人手を借りないと
階段を降りれないほどの怪我をしているのかなあと単に思ってました。
そのあと３０行目あたりまで読んで、なんとなくわかりました。

これはあとで見返して気づいたんですが、
＞ガソリンを必要とする車はいつもの車より遥かに楽だ。
という表現から、ああ、あれに乗ってたんだ、ていう感じですかね。


＞問題に関してお叱りの言葉があるかなと思いましたが、
＞今のところ無いようなので少し安心しました。
確かに良く出来ている問題です。
そして別に彼を犯人にするのが悪いという訳では無いんです。

ただ、犯人が分かって回答を考えていると、回答方法が少し不謹慎かなと思いました。
できないこと探しというか、彼にできないことをあげつらっていくというか・・・。
最近は保護団体の活動も活発化してますし・・・、
とこんな風に捉える僕の方が不謹慎かもしれませんね。

例えば他に回答方法のアイデアとしては、
「犯人がこの人だと思う決め手となった１文を抜き出してください（重複可）」
このくらいしか思いつきませんが、これでも一緒ですね。
まあ１週間に１人は死人が出るサイトなので（苦笑）、許されるのかもしれません。
詳しいことは分かりません。

＞本文の何行目あたりであのことに気付いたんですか？　
＞一度読んだだけですぐに気付きましたか？　
１回読んだだけでは分かりませんでした。
初め読む時は気が散っていたのであれ？と疑問符を浮かべながら読んでいました。
腰を据えて読み返してみたら、「なぜあのコンビの目線で描かれていないのか」と、
「あのこと」の両方に１行目で気づきました。
その後は確認のために読みました。
つまり「２回目の」１行目です。



Apolloさん、こんばんはー。

どらさんと同じです。
ただ、私は「答えたい」という欲が勝ってしまいました。
私のが一番タチの悪い解答に思えます。日頃の性根が出ました。
読んでお気を悪くされた方、申し訳ありませんでした。

作品に出てくる分には、きちんと描かれていれば
大丈夫だと思います。解答方法については、
瞬殺でもそのものを答える方式が合っていたかもしれません。

Apolloさん、お気に障ったらごめんなさい。

問題は2回読んでようやく分かりました。


あ〜またやってもうた。削除キーいれてなかった。
＞私のが一番タチの悪い解答に思えます。
というのは、他の方のも悪いってわけじゃないです。
他の方とは関係なく、自分の解答が、ということです。

そもそも気にする方が失礼、という考え方も
ありますし、ほんと、分からないんですが。はい。
あくまで自分のやり方がちょっと、ということで。
すんまそん。


私は１回目を読みながら『？？？』と思い、
２回目を読み始めて『あー、そういうことか』と気づきました。

解答方法は私は気になりませんでした。
最初はＡｐｏｌｌｏさんが何を気にしているのか分からなかったくらいで・・・。
でも不快に思う人もいるでしょうね。（どの考え方が正しいかはその人次第なので別として）

>作品に出てくる分には、きちんと描かれていれば
>大丈夫だと思います。解答方法については、
>瞬殺でもそのものを答える方式が合っていたかもしれません。
私も同意見です。


　やはり不快感を与えてしまったらしく、申し訳ありません。
　解答方法については直前まで悩みました。最初は何心無くこの解答方法を採用したのですが、読み返してみて差別的な表現になっているかもしれないと気付きました。瞬殺方式にするか、引用方式にするか。そうも悩みましたが、多くの方に答えてもらいたいという欲望に勝てませんでした。今にして思えば、『何回目の何行目で気付きましたか？』という質問に変えたほうが良かったですね。
　ただ、何が正義で何が不道徳かを考えた時、答は相手次第だとも思いましたので。人間誰しも得手不得手がある訳で、『彼らにできないこと』だけを不可蝕にすれば、考えようによってはそれこそが差別になる、という思いもありました。だからそこの判断は皆さんに委ねたのですが、どっちにしてもあの解答方法を要求したのは配慮が足りなかったと思います。

　諸事情により、今回の解説は無しにします。これを省みて、次からは道徳に反しない問題にしようと思います。どうもご迷惑をお掛けしました。
　今回の皆さんのご一考、まことにありがとうございました。


※　問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実在に存在するものを示すものではありません。