湯けむり温泉殺人事件
Apollo (2004/06/14(Mon) 22:51:03)
どうもこんにちは、私はApolloです、あなたは誰ですか。
――まあ、近畿ローカルの前口上はさて置き。
もはや誰も知らないor覚えていないシリーズ、柊玲奈24歳と相沢圭介19歳のコンビの話、復帰第一弾です。
今回は暗号モノです。すいません、小学生には厳しい問題かと思います。
それでは、どうぞ。
※ この話はフィクションです。この作品に登場する個人名・団体名などは全て架空のものです。また、某国の月面着陸もフィクションだったという噂もまことしやかにあり、とあるアンケートによると、その国の国民のおよそ4分の1はもはやこの歴史的偉業を信じていないそうです。但し、このアンケート結果はどこまで信頼できるかは不明です。
***
林冠から幾筋もの光が洩れる山道。それを30分ほど走った先にあったのは、一軒の温泉旅館だった。
「柊さん、着きましたよ」
ここまで車を運転してくれた少年が、アタシの座る助手席のドアを外から開けながら言った。しかも、「掴まれ」とばかりに片手をこちらに差し出してきている。
アタシの場合、こういうキザったらしい行動をとられると普通、そりゃあもう皮付きモモ肉のように全身びっしりと鳥肌が立ってしまう。でもそうならなかったのは、少年が普通じゃ考えられないほど容姿端麗だったからだ。
但し、アタシはこいつがいけ好かない。こいつは結構むかつく台詞を平気で吐くからだ。
「相沢クンってホントにそういう行動が好きねえ」
アタシは厭味ったらしく言いながら相沢の手に掴まり、よっこいしょっと漏らしながら車を降りた。
こんな風にエスコートしてもらってるけど、アタシはどこぞの貴婦人でもないし、相沢ともデートしてる訳じゃない。頭にパトランプを付けた車から降りてきたことから分かるとおり、アタシは刑事で、相沢はコンビを組んでる後輩なのだ。一応若い男女が温泉宿に来た訳だけど、それは殺人事件という色気もへったくれもない理由の為だった。
車から降りたアタシ達は、旅館のフロントロビーへと向かう。シーズンオフということで、客の物らしき車はどこにも見当たらなかった。
ふと、駐車場を歩くアタシの鼻先を異臭がかすかに掠める。
「なんか臭くない?」
「ああ、硫黄の臭いですよ。この辺りの温泉は草津や登別と同じく、硫黄泉なんです」
相沢が微笑して答えた。署のお姉様達が騒ぐ、あの微笑だ。このガキはアタシ以外には人気があるのだ。
「ふーん。それにしてもウチの管轄内に温泉なんてあったのね。そういえばアタシ、ここ何年か温泉に行ってないわ」
「では今年の冬あたりに二人で行きましょうか。どこか混浴のところを捜しておきますから。――ぐぶっ!」
不細工な悲鳴を上げた相沢が喉をさすり、
「一瞬呼吸が止まりましたよ。何するんですか」
「寝言言ってたから腕枕してあげたのよ」
「おかしいですね。僕の持ってる辞書には、たしか『腕枕』という単語に『ラリアット』という意味は載っていなかったと思うんですけど」
「最新版では改訂されてるわよ」
「では買い換えておきます」
そんな遣り取りをしながらフロントロビーに入ると、藤色の着物を召した若い仲居が現れた。その人に案内されて、アタシ達は殺人現場へと向かった。
●
現場は屋内の大浴場で、被害者は従業員の茅島正(かやしま ただし)35歳だった。凶器はおそらく死体の傍に転がっていた拳二個分くらいの大きさの岩石で、どうやらしゃがんでいたところを後頭部に一撃見舞われたらしかった。
さて、被疑者だ。この日旅館にいた数十名の従業員の証言によると、今朝は宿泊客が一人もおらず、従業員以外は誰もいなかったそうだ。
犯行が可能なのは従業員のみ。その中でアリバイが無いのは、以下の四人だけだ。
瀬川頼子(せがわ よりこ) 47歳 この旅館の女将
瀬川義久(せがわ よしひさ) 22歳 従業員(頼子の息子)
岸森翔 (きしもり しょう) 21歳 板前
秋里千波(あきさと ちなみ) 29歳 仲居
犯人はこの四人のうちの誰からしい。ちなみに、第一発見者にはアリバイがあった。
「で、これはやっぱりダイイングメッセージなのかしら?」
アタシは死体の右手の傍の床につづられた血文字を見る。
↑
−ZERO
現場にこれが残ってるということは、犯人が現場を去ってから、被害者が最後の力を振り絞ってこれを書いたのだろう。犯人が第一発見者になる可能性を考えて、暗号にしたらしい。
何にしても、問題はこの暗号の意味だ。
「上のは矢印? なんか温泉を指してるみたいに見えるけど……」
そうアタシが一人ごちながら考えていると、
「そうみたいですね。それにしても、引く物が『ゼロ』で良かったですよ。これがもし『変態』でしたら大変なことになっていたでしょうから」
相沢が突然そんなことを言った。その一言で、アタシは悟った。
アタシは相沢に視線をよこす。
「えーと……、相沢クン。その言動はつまり、今回もいつものパターンどおりってことなの?」
「はい。暗号を解読して、犯人を割り出しました」
相沢はいつものパターンどおり、しれっとそう言ってのけた。
……まったく、こう毎度毎度先を越されるってのはさすがに癪なもんだ。ま、文句をたれててもしょうがない。それより事件解決が大事だ。
「で、犯人は?」
「はい。それは――――」
●
アタシと相沢を乗せた車は、犯人を連行するパトカーの後に付いて山道を降りていた。
ちょうど相沢がアタシに犯人の名前を告げた頃、鑑識とかを連れた応援が現れたのだ。そんな訳で車内に犯人はおらず、アタシと相沢しかいなかった。
「あー……、それにしても毎日毎日しんどいわねぇ、ここんトコ夜勤も多かったし。こういう不規則な生活って絶対健康に悪いわ」
「そうですね。柊さんくらいになると特に」
――ピク。奴の含みのある言葉に、アタシのこめかみがしっかりと反応した。
「何なのそれ? ひょっとしなくても『柊さんくらい』ってのは年齢のことを言ってる訳?」
「言葉以上の意味はありませんよ」
奴がそう抜かした。
――無え訳ねえだろこのクソガキがぁっ! と心の中でちょいと思ったりもしたが、大人の女であるアタシはいちいち激昂したりせず、「ああ、そう」とだけ答えた。
「はあ〜あ。ホンっっト毎日毎日疲れるわ」
アタシは溜め息混じりにぼやき、首を傾けて肩を叩いた。
「じゃあ今夜にでもこの辺りの温泉につかりますか? 今日は書類整理をすれば帰れる訳ですし、車なら僕が出しますから」
はあ? あんたまだそんなこと言ってるの?
そうも思ったが、全身にのしかかる疲労感もさすがに見過ごせないレベルに達している。
「うーん、そうねえ……」
アタシは溜め息をつきつつ考える。
まあ、アタシと相沢じゃまず間違いは起きないし、仕事帰りに相沢に誘われて夕食を食べに行ったことが何度もあるけど、いつもその日のうちに解放してもらってるし。
そう考えながら、アタシはフロントガラスの向こうを見やる。陽はまだ高いらしく、山道の木洩れ日も茜色にはほど遠かった。
アタシは一つ頷く。
「そうね、行きましょ。その代わり条件が二つ。一つは、殺人事件が起きるような温泉はやめること」
「当然ですよ。それで、もう一つは?」
やたらと上機嫌そうに微笑む少年。そのいけ好かないこしゃまっくれた後輩に、一言アタシは物申した。
「たまにはアタシにも奢らせなさい」
〜 Fin 〜
***
はい、以上です。長文お疲れ様でした。まあ、問題自体は長文にする必要も無い程度のものですが、今後ともどうぞお付き合い下さいませ。
さて、犯人は一体誰でしょうか。暗号返しは難しいと思うので、犯人の名前と、暗号を解読するプロセスをお答え下さい。
誤字脱字がありましたら、そちらもご指摘して下さい。
Apollo (2004/06/15(Tue) 18:00:46)
はい、一日弱が経ちましたがレスがありません。
まあ、気を取り直してヒントを載せておきます。
「ZERO」が表しているのは一文字です。矢印の先にあるものからそれを引けば、暗号の示すものが分かる仕組みになっています。
ちなみに、相沢が言った「変態」が表しているものも一文字です。
ヒントは以上です。皆さんの推理をお待ちしております。
長々と付記
選挙の投票の直前になるとよく「非常に厳しい選挙戦になりました! どうか私にあなたの一票をお願いします!」って訴えてる候補者がいますが、ふざけんなって思います。俺達が票を投じるのは、そいつをお偉いさんにして権力を握らせてやる為じゃない。自分達の周囲の環境をより良くする為に、共感できる理念を持っている人に自分の意志を票という形で託してるんだ。「同情」とか「義理」とか「知名度」とかいう理由で投票するくらいなら投票しない方がよっぽどマシだろうが。そういう風に思うので、泣き言をぬかして票を集めようとする浅ましいクズには絶対に投票しません。
で、何故突然こんな話をしたかというと、レスが無いこの現状に対して「厳しいなあ……」と泣き言をぬかしたくなったからです。
うん、でも負けない。もう大人だし。おととい近所の子供に普通に「おじちゃん」って呼ばれてしまったほど大人だし。
LOCKY (2004/06/15(Tue) 18:38:50)
お久しぶりです。
このシリーズを覚えている人間です。
ONNSENN
→O・N・S・EからZERO=Oを引いてSEN→千
→秋里千波(あきさと ちなみ)
変態→H、硫黄→Sだったら元素表だろうかと
NOFNe
S
複雑に考えていましたが、上記でよいのでしょうか。
Apollo (2004/06/16(Wed) 00:57:03)
LOCKYさん、お久しぶりです! レスありがとうございます!
さて、
>ONNSENN
>→O・N・S・EからZERO=Oを引いてSEN→千
>→秋里千波(あきさと ちなみ)
すいません、これ、想定外です……。たしかにこれだと秋里を指しているようにも考えられますね。問題の不備です、すいませんでした。申し訳ありませんが、これは別解ということで、他の解読法も推理して下さい。
ちなみに、 ZERO=O は正解です。
>変態→H、硫黄→Sだったら元素表だろうかと
これも正解です。被害者は元素記号を用いて、犯人の情報を伝えようとしたのです。
ここまで分かれば、正解まではもうすぐです。残る問題は、矢印の先にあった『温泉』をどのように表すかです。この温泉の泉質と、全ての温泉の主成分を合わせたものが、ここで問われている『温泉』の示すものです。
それでは、解決までお付き合い下さいませ。
LOCKY (2004/06/16(Wed) 16:22:14)
硫黄泉だから、硫黄Sと主成分の水H2Oですよね。
→SHHO
ZERO=Oを引いてSHH→H2S
・・・で、イニシャルがSで水の分子を持つ→瀬川
このあと2人のうちどちらか特定するのが難しいですが、
「頼」子に三ずい(水)をつけたら「瀬」になるので、
瀬川頼子(せがわ よりこ)
Apollo (2004/06/16(Wed) 18:46:41)
LOCKYさん、ご参加ありがとうございます。
――が、謝らなければなりません。出題に完全なミスがありました。
水の元素をH2Oではなく、HO2と勘違いしていました。で、SHO2からOを引いてSHOという展開にしようとしたんです。引かなければならないのは「ZERO」ではなく、むしろ「変態」のほうでした。
わざわざ時間を費やしていただいたのに、このようなことになってすいません。ご参加いただきありがとうございました。推理の公式としては合っているので、正解とさせていただきます。昔からLOCKYさんには迷惑をかけてばかりで、本当に申し訳ないです。
今回の失態を糧に、信頼回復に努めたいと思います。
本当に申し訳ありませんでした。それでは済します。
キョウ (2004/06/16(Wed) 19:47:44)
Apolloさんどうも。
今回はいろいろ考えたのですが
全然解りませんでした。
ただ、私としては前作のような『解決編』
を楽しみにしていたのでチョット残念です。
まあ、誰にでもミスはあります。めげずに
次作頑張って下さい。次作こそよく考えて
レスさせて戴きます。楽しみにしております。
Apollo (2004/06/17(Thu) 08:50:26)
キョウさん、はげましレスをありがとうございます。お見苦しいところを晒してしまい、すいません。
前作のような狙った解決編は自分としては珍しいものだったので、今後どうなるかはわかりませんが、いずれ何かを思いついた時にはミスに気をつけて載せたいと思います。
遺憾の意を表しつつ、失礼させていただきます。ありがとうございました。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実在に存在するものを示すものではありません。