神は細部に宿る
むた (2005/08/15(Mon) 19:54:19)
「ワールドカップは戦争なのだ。」(ドゥンガ「セレソン」より)
プロローグ〜ナポリの練習場
その日マラドーナ(アルゼンチン代表)は練習で辟易していた。チームメイトの「イソギンチャク」アレモン(ブラジル代表)のマークが厳しくてどうしても抜けなかったからだ。まるでテレパシーのように先回りされてしまうのだ。
「すごいな、ゴールまでボールを運べないなんて、そうあることじゃない。」
ぼやくマラドーナにアレモンは答える。
「秘密があるのさ。」
彼は微笑むとウインクをする。
「ヒントをくれよ。」
「今、出したさ。」
憤慨するマラドーナを置いてアレモンは休憩を取ってしまったのであった。
第1章
ワールドカップの南米予選は様々なものが絡み合う。時には謀略が使われ、チームはアウエーで身の危険と神経戦にさらされる。だがブラジルは強かった。彼らは圧倒的な強さで予選を勝ち進み、危なげなく本戦出場を決めた。20年ぶりの優勝の文字は夢物語でなく国民は語った。
一方、アルゼンチンはパサレラ監督とマラドーナの関係の悪化を皮切りに次々と内紛を露呈する。彼らの救いは前回優勝チームは無条件で本戦出場できるというアドバンテージのみであった。ブラジルはアルゼンチンを嘲笑し、アルゼンチンはむきになって噛み付く。早くも後年の構図が顔を出し始めていた。それは本戦になっても変わらなかった。
本戦のグループリーグを3戦全勝で危なげなく乗り切ったブラジル。ラザローニ監督は後に「優勝戦までのスケジュールまで組めそうだった」と述べるほど絶好調であった。
一方アルゼンチンは悲惨だった。グループリーグ3位でプレーオフにまわり、辛うじて予選を通過する。そのさなか、唯一の頼れる男マラドーナは足首の捻挫と足の爪を割るアクシデントにさらされた。第2戦のカメルーン戦では「黒人差別はなくなりつつあるようだ。その証拠に俺は何度もやつらに蹴られたのにファールは一本もなかった。」とマラドーナは皮肉を言った。内紛、エースの怪我、審判のアンフェアなジャッジの疑惑・・・様々な暗雲が立ち込める中、本戦トーナメントは始まろうとしていた。世界の注目は大会屈指の好カード、ブラジル対アルゼンチンに集まっていた。
第2章
その日、ブラジルのMFドゥンガはラザローニ監督に個人的に呼び出された。彼はミーティング前に事前に二つのことを伝えられた。監督は言ったのだ。
「マラドーナを殺せ。そのために今日の試合は君の判断を尊重する。」
事実上の全権委譲であった。ドゥンガはうなづくと、マラドーナをマークする役割にアレモンを指名した。相手の足の怪我はわかっていたが容赦する気は微塵もなかった。
試合が始まった。ブラジルは前評判どおり、攻めまくる。そのときのことをパサレラは「あのとき、アルゼンチンのユニフォームを着ていたら彼らは親兄弟でも粉砕したであろう」と語るすざましさであった。
ドゥンガも著書の中で「我々は少なくとも10度、多ければ15度はチャンスを作った。」と書くほどの猛攻であった。だがその後に続く文章は次のようなものであった。「だが我々はことごとくそれをはずし続けた。」ミスを繰り返すブラジル、耐えに耐えるアルゼンチン。だがついに試合が動く。ブラジルが前線に送ったパスのコースが狂いマラドーナの真正面に転がったのだ。ミスをしたのはドゥンガだった・・・・。
「止めろ!」
ドゥンガは取り乱して叫んだ。それは悲鳴のようであった。
マラドーナの頭にナポリの練習の風景が浮かんでいたのかもしれない。マラドーナとアレモンの足は反対の方向に同時に飛び出した。二人の間に2mの間が開いた。マークが外れた。
「覚えていたのか。」
アレモンが呟いたかどうかは定かではない。だが言えることは、マラドーナはアレモンのディフェンスの秘密を見破っていたのだ。この後、マラドーナはカニージアにパスを送り、カニージアに「舌なめずりするような顔で」ゴールを決められた。運命のパスミスとマークミス。ブラジルにとってこの日は今でも「恨みの一日」といわれる汚点となったのであった。
問題:アレモンはどのようにして相手を「テレパシーを使うように」ディフェンスしていたのであろうか?
refrain (2005/08/15(Mon) 22:01:57)
むたさんこんばんは!
ボケのような真面目な答えです。伝わるかな?
>彼は微笑むとウインクをする。
>「ヒントをくれよ。」
>「今、出したさ。」
以上からアレモンはマラドーナのアイを感じ取ってマークしていた!
で、お願いします!(^^)
ぱぷわ〜 (2005/08/16(Tue) 13:16:50)
どーも。
ある意味「アイコンタクト」?
マラドーナといえば左足のマジシャン。
軸足である右足、あるいは左右どちらかの腕の動き・・・
>ドゥンガも著書の中で「我々は少なくとも10度、多ければ15度はチャンスを作った。」と書くほどの猛攻であった
全くその通り。
開始早々のビッグチャンスでカレカがきっちりきめてれば・・・。
むた (2005/08/16(Tue) 15:41:47)
refrainさん正解です。おそらくぱぷわさんはわかっているのでしょう。
ほかに答えはあるかもしれませんが、一応当事者の意見を採用します。
出典はマラドーナの自伝の言葉です。
「彼がマークする相手の目線を基準に動いていることは確かだった。だから僕は目線を左に走らせてから右に足を踏み出した。(略)アレモンがあわてているのが解った。」
人間は動くときその方向に無意識に目線を送ります。それをこの大舞台で逆手にとったマラドーナはやはりサッカー界最大の天才といえるでしょう。
それにしても相手の目線を読んだり、それを逆手に取ったり日本代表が挑戦する世界の舞台はまだまだ神々の世界のようです。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実在に存在するものを示すものではありません。