パラノイアの中の正気
Apollo (2003/01/07(Tue) 19:27:59)
雑草魂でリベンジ。人様の問題は全然解けないApolloです。
柊玲奈24歳と相沢圭介19歳の話も、おかげさまで第四話です。今回はまた暗号です。
ところで、良質な暗号問題にはポイントが二つあると俺は考えてます。ちょっと閃けば簡単に解けることと、暗号文が短い(無駄な肉付けが少ない)ことです。
――んが、しかし。今回はポリシーを少し曲げて、ヒネた問題にしました。と言っても、まあこの程度ですが。友達は10分ほどで解きました。
前口上が長くなりましたが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
●
一口に自殺と言っても、その種類は幾つもある。
一昔前に話題になった本には確か、最も見苦しくないのは凍死自殺で、一番ゲゲボなのは首吊り自殺だとか書いてあったらしい。アタシ柊玲奈も、首吊りはやめた方がいいと思う。死後に体中の穴という穴から、体内の物がだだ漏れになるからだ。つまり、死体が糞尿なんかを垂れ流すって訳よ。だから首吊りはやめた方がいい。いや、そもそも自殺なんて、絶対やめた方がいい。
ともあれ、一口に自殺と言っても、その種類は幾つもある。その中で曽ヶ崎平太が選んだのは、飛び降り自殺だった。
曽ヶ崎平太は、とある殺人事件の被疑者の一人だった。平太の兄で、売れないロックバンドのギタリストだった曽ヶ崎孝太が、何者かに刺殺されたのだ。
平太の他に、被疑者はもう二人いた。孝太のバンドのヴォーカル飯島活哉と、孝太と平太に二股をかけていた潮見涼子だ。
その二人と平太を任意で同行しようとしていた矢先のことだった。平太が自宅マンションの屋上から飛び降りたとの報せを聞き、アタシは相沢と現場に急行した。
***
「ううう……、寒いわね」
高層マンションの屋上に出たアタシは、自分を抱きしめた。断続的に冷たい夜風が吹き、髪が顔にまとわりついてくる。
「いやあ、綺麗な夜景ですねえ。ですが、柊さんの方が綺麗ですよ」
「ああ、そう」
いちいち付き合ってられないので、適当に返事をした。
アタシも周囲を見回す。駅に近い都市部なので、確かに夜景は綺麗だった。街という漆黒の海に星が降り、水面で瞬いている。
こういう光景を見た場合、手を胸の前で組んで瞳を潤ませ、『いやん、とってもキレー☆』などとほざくべきなのかもしれないが、アタシはそういう女でもないので、寒さに奥歯をガタガタ震わせていた。
と、相沢がアタシに彼のマフラーを巻いた。
「何キザったらしい真似してるのよ、ガキのくせに」
「ガキだからしたんですよ。子供の方が体温高いですから」
白い息を吐きながら、相沢は微笑した。元々端正な顔立ちなので、かなり魅力的だった。他の女達が騒ぐのも無理ないかも。
アタシはマフラーに顔をうずめながら、平太が飛び降りた場所へと向かう。
「カッコ良くて助かったわね。ブ男ならヒンシュクものの行動よ?」
「それって、一応誉めてるんでしょうか?」
隣を歩く相沢が尋ねてきた。
「一応ね。ありがと」
「おや、珍しい」
そう言って相沢は笑いやがった。殴ってやろうかとも思ったが、マフラーの恩もあるので許してやった。
などと言っているうちに、アタシ達は屋上の端に辿り着いた。胸の高さまである柵の内側に、靴が一足置いてある。その下に、白い封筒が敷かれていた。
「遺書ですかね」
「たぶん、ね。他には……、特に変わった物は無いわね」
アタシは手袋を嵌め、靴をどけて封筒をつまみあげた。そして暗闇の中で目を凝らす。と、達筆な文字が見えた。
「『遺書』。やっぱりね。とりあえず明かりのあるトコに行きましょ」
「はい」
アタシ達は踵を返し、屋内へと戻った。
「閉めて。寒いから」
アタシの言葉に従い、相沢が扉を閉めた。
「さて、と」
封筒を開けると、中には便箋が一枚入っていた。アタシはその便箋を広げ、二人で文面を覗き込んだ。
◇◆◇
生来自分はいたずらに時をむさぼってきたが、今その空虚な人生に自ら幕を閉じようと思う。そこで、筆の向くままに最後の言葉を綴ることにした。これを読む者が誰かは知らないが、下記のとおりに読んでくれ。
『注目すべきは、支柱となる1ダースの神徒のみ。各々の神徒の直後をその体長の分だけ、つまずくこと無くついていけば、真実はおのずと見えてくるだろう。但し、無知な世論には耳を傾けず、真の順序で読んでほしい』
寝惚けたことばかり申し、兄に本音を言えなかった。
それも、こちとらコロシアムで牛と闘った者の如く、疲れていたためだ。
疲弊した自分はこの世を発つ。
確かに所詮は世界中に疎まれる身よ。
それでも最期の時くらい、蝶のよう舞うことはさせてほしい。
この死にゆく憐れな仔羊は、益を誰にも与えなかった。
兄のなさるロックも理解しようとしなかった。
その責任を取り、母さんを案じつつ死のう。
嗚呼、現世には張り合いが無い。
まるで相手のいぬ碁などのようなので、自分はここからいなくなってしまおう。
願わくば、このパラノイアの文章から、正気の21文字を見出してほしい。
◇◆◇
「…………」
アタシは黙り込むしかなかった。
暗号なんだろうか? 解読方法がわからない。
「『真の順序で読んでほしい』……? どういうことよ」
アタシがそう一人ごつと、
「真の順序は、最初と二番目が逆だったんですよ」
「へ?」
相沢の方を見ると、相沢は階段を下り始めていた。
「ちょ……、ちょっと、どこ行くの?」
「実況見分ですよ」
「はあ?」
実況見分? どういうこと?……って、こいつのことだし、またあのパターンだろう。
「あんた、正気の21文字とかいうやつが読めたのね?」
「はい。ですから早く行きましょう。あ、その前に何か温かいものでも飲みます?」
「それより先に、なんて書いてたのか教えなさいよ」
「ああ、そうですね」
相沢はアタシの元へと戻り、文面を指差しながら説明を始めた。
●
以上です。
暗号と犯人がわかった方は、かなり面倒とは思いますが、できるだけ暗号返しでお願いします。何なら最初の数個だけで作ってもいいです。その時は、正気なのは何文字かを明記してください。
それでは頑張って下さい。
ロッキー (2003/01/08(Wed) 00:49:48)
「Apollo」さんだけにオリュンポス十二神だと思ってました(笑)
HN知らなきゃ10分なのもうなずける。
ところで21文字抽出しましたが意味が分からない、
と言うより犯人が特定できないといった方が適切かな。
21文字を書いたらダメなんですよね?
抽出した文字によると犯人の名前を示すのではなく、
証拠の場所しか無いようでしたがいいんでしょうか。
「真の順序」の意味は分かりましたよ。
レース最後のギリギリまで2番だったからですね。
この後どうすればいいんでしょうか。
それから「正気の」とは如何なる意味?
シロ (2003/01/08(Wed) 01:10:31)
10分では無理でしたが、解けました。
犯人は・・・?とりあえず暗号が解けた、
ということの暗号返しを。
帽子と携帯、
寝巻きを忘れずに
カギは軽トラ下にあります
母より
カギっ子へのメモ、みたいですね(W
5文字です。合ってますでしょうか?
ロッキー (2003/01/08(Wed) 01:53:13)
考え直したんですが、どう書いていいものやら・・・。
この暗号で必ず犯人が分かるのなら、前半の文字は証拠の在処のことで、
後半は証拠が隠されている入れ物ではなく犯人を示している、
という意味なら解けたことになりますが説明しづらいですね。
シロさんが作ったので僕も暗号返しを頑張って作ります。
※最初書き込んだ僕のRe:1と、現在の僕のRe:1とは随分違います。
別に答えを書いていたわけではありませんが、
後続者に考える余地をより多く残そうとして編集しました。
ロッキー (2003/01/08(Wed) 02:35:27)
暗号返しできました。徹夜状態です。疲れました。
好きでもなんでもないのですが作っていたら「蘭」という単語が出てしまったので、
名探偵コナン風になってしまいました。
僕は全然対象年齢外なんですけどね・・・。
以下コナンと蘭の会話。この中でApolloさんに暗号で質問しています。
ねえ、一見彼の容姿犯罪者だよね。人気なさそうだぜ。
えっと、蘭はうろ覚えだけど冬にこたつ使うんだっけ。
お、怒るなよ。へるぷみー!ひょっとしてその銅像は馬??やめろー!
Apollo (2003/01/08(Wed) 08:45:25)
えー、お二人とも解読方法は正解ですし、推理としてもそれ以上発展しないのでお答えしましょう。
正気の21文字は、前半と後半の間に『。』があると考えて下さい。前半が犯人を表し、後半が何かの場所を表している。それだけです。
ご指摘がありましたが、『正気』という言葉に深い意味はありません。あと、オリンポスの12神は誰なのか知りません(笑)。日本語大辞典にギリシア神話の家族構成図があったので、それで調べたいと思います。ついでに、友人は俺がApolloだって知ってますよー。
ロッキー (2003/01/08(Wed) 11:24:12)
時間が無いから犯人は「質問した方じゃない人」でお願いします。
Apollo (2003/01/08(Wed) 13:52:43)
へ? 『質問した方じゃない人』? ごめんなさい。よくわかりません。
が、Re[4]の質問の答は『違う』です。
ついでに。 『。』を打つのは七文字目の後です。
どら (2003/01/08(Wed) 14:00:29)
どもども
ええと…
つまり、犯人は自殺した「曽ヶ崎平太」ということですよね?
この暗号は、殺人の告白ってとこですね。
※ところで例のレースですが、やつは2着が「真実の順序」なんですか?
ヤマト (2003/01/08(Wed) 16:39:43)
パラノイアってなんですか??
(どらさーん!自分の問題も呼んでくれー。
つまらないのか誰も答えてくれない(;;))
琥珀 (2003/01/08(Wed) 16:56:56)
> ヤマトさん
「パラノイア」は「狂気」の事を言います。
肝心の答えは・・・全然分かりません。
もう少し考えてみます。
ロッキー (2003/01/08(Wed) 18:43:36)
「時間が無いから云々」のカキコの後、只今挑戦状に戻りました。
>『。』を打つのは七文字目の後です。
こう書かれたらどらさんに同意するしかありませんね・・・。
もっと早く戻って読んでいれば!残念です。
時間に追い立てられていたので意図が伝わらなかったようですが、
>犯人は「質問した方じゃない人」でお願いします。
とは詳しく説明すると、
「暗号返しの質問で犯人を提示したのに正解と言われないということは、
問題の暗号はもう片方の生存被疑者の名前を無理矢理頭と尻だけくっつけたもの。
よって犯人は『2人の生存被疑者のうちもう片方の人』でお願いします」
という意味だったんです。
1分1秒を争って出かけたんで上手く書けませんでした。すみません。
Apollo (2003/01/09(Thu) 09:11:39)
どらさんへ。奴は二番だったらしいんですよ。正確な神話とちゃうんかなあと心配しとりましたが、ロッキーさんも知ってはったし、やっぱり神話なんやろうと思います。
ロッキーさんへ。ああ、そういう意味やったんですか。暗号か何かやと思いました。
さて、必要かどうかはわかりませんが、(大)ヒント。『』内文章の「支柱」は、べつに支持でもいいんですが、人柱や一家の大黒柱じゃダメです。
次の方が解けたら済にするので、暗号が解けた方は解答を書き込んで下さい。
ロッキー (2003/01/09(Thu) 11:52:57)
>正確な神話とちゃうんかなあと心配しとりましたが、
>ロッキーさんも知ってはったし、やっぱり神話なんやろうと思います。
ええっと、神話は好きですが別に精通してるわけじゃありません。
それでもなんだか責任重大のようなのでいろいろ調べました。
では結果報告。ヒントにならないように気をつけます。
言葉の綾かも知れませんが、厳密には神話と言うより民話の方がいいようです。
現在では2番手として定着している者が、ゴールへ先に到着したことは確かです。
しかしレースの審判に判定されたのは奴が先なんです。
どらさん、これで「真の順序」がご理解いただけましたか?
しかしApollo さん、どういうご友人とお付き合いされてるんですか(笑)
HN知ってて10分で完全解答って・・・すげえ。
どら (2003/01/09(Thu) 12:00:26)
どもども
皆様、解説ありがとうございます。(^―^)
私の記憶では、背中に乗っていた「やつ」が
ゴール前、ぴょんと飛び降りたのだと思っていました。
なので、スタートからずっと「ずる」してるので
「真実の順序」では「びり」なのかなぁと…。
まあ、あまり深く突っ込むところではないですね。(^_^;)
Apollo (2003/01/09(Thu) 14:48:36)
>どらさん
うん、あまり突っ込んであげないで(苦笑)。
そうなんですか? 俺の灰色のニューロンは二番目と記憶してるんやけど……。
とりあえず、今回は二番目ということで。
もう誰も来ーへんかなあ? 明日あたり、解説して済にするので、答えたい人がいればそれまでにお願いします。
Apollo (2003/01/10(Fri) 11:03:22)
誰も来ませんでしたね……。
では、予告どおり解説を。
『支柱となる1ダースの神徒』とは、十二支。『体長』とは、文字の字数。『つまずくこと無く』とは、句読点を無視してと言う意味です。つまり、『十二支の直後をその動物の字数と同じ数だけ、句読点を無視して読め』ということです。
しかし、これだけでは解けません。暗号文には十二支の動物が出てきますが、それを真の順序で読まないとダメなんです。十二支の順序はご存知のとおり、『ね・うし・とら・う・たつ・み・うま・ひつじ・さる・とり・いぬ・い』ですが、本当は違っていたはずだったんです。うろ覚えですが、こんな話があります。
神が動物達に言った。正月(だったと思う)に神の家を訪れたものを神の使いとし、その神徒としての順序は家に到着した順番にする、と。
12の動物達は神の家に到着する順序を、つまり神徒としての順序を話し合いで決めることにした。その結果、『うし・ね・とら・う・たつ・み・うま・ひつじ・さる・とり・いぬ・い』の順番に決まった。そして正月、動物達はその順番で神の家へと一団になって向かった。
神徒としての順序は決まっていたが、それを不服に思うものがいた。ネズミである。ネズミはどうしても自分が一番になりたかった。そこで、ずる賢いネズミは牛に言った。
自分の体は小さいので、神の家まで歩くのは大変だ。神の家まで、あなたの背中に乗せてほしい。
牛はその頼みを聞いてやり、ネズミを背中に乗せて、神の家へと向かった。
そして、一団は神の家の前に到着した。その門をくぐる直前、牛はネズミに言った。さあ、到着したから降りてくれ。ネズミは、ああ、と答え、牛の前方へヒョイと降りた。ネズミが降りた場所は門の向こう、つまり神の家の中だった。
こうしてネズミは、まんまと一番目の神徒となったのである。
ということで、真の順序は、「うし」が一番「ね」が二番だったんです。
これを踏まえて暗号文を解読すると、こういう21文字になります。
『あに を ころ し たし よ うこ はえき ろっ かあ ごな な』
つまり、
『兄を殺した。証拠は駅ロッカー57』
となります。兄を殺したことと、その証拠が駅のロッカーの57番にあることを自供する内容になる訳です。
さて、次回は第五回スペシャル(?)です。暗号を二問予定していましたが、推理問題を思いつきました。折角なのでそちらから先に出したいと思います。
というわけで、済!
ロッキー (2003/01/10(Fri) 12:12:34)
大変面白かったです。自分は作らないで解くだけでいいので楽(笑)
といっても僕は「支」柱→十二「支」などの暗号変換は苦手です。
今回は「12の神徒」からアプローチしたので解けただけです。
僕が作るとApolloさんと同じくらいの長さになってしまうので面倒・・・。
ネタはあるんですけどね。
さて、ヒントになると思って書き込みませんでしたが、「いろいろ調べました」結果、
面白い逸話が見つかっていましたんですよ。
神話というか民話なので諸説ありますからどれが正しいという訳ではありませんが、
十二支の動物は解答のように「話し合い」でなく、
神が元旦に自分の前に参上した順に「早い者勝ち」で、
12匹の年の頭(かしら)を決める話というのもありました。
その時、猫が約束の日を忘れてネズミに尋ねたところ、
ずるがしこいネズミは2日だと言ってだましたそうです。
もちろん早い者勝ちで12匹ですから2日に来た猫は論外。
それで猫は今だに恨みに思ってネズミを追い掛け回しているんだとか。
そんな話もあるんですよ、いろいろと。
では次回作がんばってください。推理問題とはアリバイ崩しのことですか?
いいですね〜。・・・暗号問題も充分推理問題なんですよ。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実在に存在するものを示すものではありません。