通過儀礼
むた (2005/07/18(Mon) 16:02:20)
「そのとき全ての心配ごとは
青空にとけて消えるだろう。」(鈴木祥子「創作ノオト 上」より)
プロローグ
「二人で旅行なんて初めてね、むたくん。」
うれしそうに彼女が微笑む。彼女〜クミコは私の婚約者だ。旅行といっても彼女の両親に挨拶に行くというのが大義名分だ。まあそれでもかなりの田舎の農家だということではあるが。自然、新幹線の中は華やいだ雰囲気になって見える。ただいくら一つ年上とはいえ、君付けは勘弁して欲しいものだ。
「両親のほかにあって欲しい人が何人かいるのよ。もう10年も会ってない人だからね。」
折に触れて実家に帰っていても仕事してたらまあそんなものだろう。その後に続く乗換えのことを考えながら私は外の景色をぼんやりと見つめている。
第1章
「ほう、クミコちゃんか。大きくなったねー。」
彼女が駐在さんと呼んだ老巡査は温厚な顔をニコニコさせながら言った。
「旦那になる幸せもんは、東京の刑事さんかね。うん、まじめそうやね。」
私は軽くお辞儀をする。お茶を入れようと立ち上がる。戸棚の上の湯飲みを取ろうといすを引き寄せる。少しいらいらして見えるのは気のせいだろうか。そういうと彼は苦笑しながら返す。
「おお、気づかれたのかね。実は少し困った問題があってな。ちょっと協力してくれんかね。」
「何でしょう?」
「実は数日前、山ン中から古い骨が見つかってなー。それが尋常じゃない骨なんよ。」
駐在さんが骨の写真を見せる。頭蓋骨は一文字に割れている。割れてる部分は脳天からおでこにかけての部分だろうか。
「殺人ですね。」
「そうなんだ。だけど、この間来た県警の方は、おそらく20年ほど前のもんだろうというから時効だろうって言ってな。まあそりゃいいんだが、今、報告書を書くのに一苦労で・・・。」
駐在さんは頭をぼりぼりかく。こういう作業は苦手なのだろうか。それ以外にも何かありそうだ。
「あんたはだませそうもないね。」
彼は事情を話してくれた。
第2章
「東京の刑事さんですか?話だけでも聞いていただけますか?」
30くらいの小柄な青年、タカシナノブオは静かに語る。服の間の手足からは古いあざがのぞく。
「あの骨は私の父です。そして父を殺したのは私です・・・。」
彼は涙ながらに語りだす。180を超える大柄な彼の父親は酒乱で奥さんに逃げられた後はいつも息子である彼に八つ当たりをしていたという。そんな生活の中でも生きてこられたのはやさしい女の先生がいてくれたからだそうだ。
「それで20年前のその日事件が起こったんです。」
その日も、父親は酒でようと彼を理由もなく殴りつけた。いつもはしばらくすると眠ってしまうのにその日に限って、いつもより多く殴られた。そしてその日はいつもと違うことが起こった。
「先生が家に訪問してきたのです。そして鍵がかかってなかったので家に入ってきたんです・・・。」
彼女は少年を殴る父親を止めようと後ろから飛びついた、かっとなった父は先生を突き飛ばすと立ち上がった。その姿におびえて父にしがみつく息子を突き飛ばした。息子の目には先生を押し倒す父の姿が見えた。とっさにそばにあった刃物、鉈だったかもしれない、を握り締めた。
「そこで僕の記憶はなくなっています。駐在さんに話してもどうしていいあわからないというばかりで・・・。」
「君の記憶はどこからつながっているんだ?」
「気づいたらベッドの上でした。何でも先生が私を抱えて歩いているところをパトロール中の駐在さんが見つけてくださったと聞きました・・・。」
私は話の内容を頭で再構築する。そして迷った。この話を私は誰に話したらいいのだろうかと・・・。
問題:彼が記憶を失っている間に、彼の家ではどんなことが起こっていたのだろうか?
線分ft (2005/07/18(Mon) 18:40:15)
こんばんは
全ての心配事が青空に……逝去? 線分ftです。
(この世に片付く物なんてない。とは漱石だったかな……)
さて、思いついたストーリィを……
傷が脳天から額なので、かなり上の方から叩いたと思われ
三十くらいに成っても小柄なノブオは犯人ではないでしょう。
しかも、押し倒した体勢の人に
脳天から額にかかる傷をつけるのは少々無理。
なので……鉈(?)を握った息子を被害者が強打し、息子は失神。
そして被害者が先生に襲い掛かろうとした時
パトロール中の駐在さんが駆けつけ、制止しようとしたが反抗
止むを得ず殺害……
……推理は無理矢理ながら、登場人物を全て出せたので満足(え)
DAP (2005/07/19(Tue) 07:02:47)
2005/07/19(Tue) 07:04:06 編集(投稿者)
2005/07/19(Tue) 07:04:01 編集(投稿者)
おはようございます。DAPと申します。
○とりあえず気になった点を羅列してみる。
・20年前のアザが未だに(それも複数個)残っているものなのか
殴打によるアザってどれくらい残っているものなのかなぁ、とは考えたのですが、そういう知識が皆無なものでさっぱり。この点は保留。
・どうして事件の日、父の様子が違ったのか
離婚調停が正式に成立した・・とかかなぁ・・。
でも「逃げられた」とあるから、もうそういうのは片付いているのかも知れないし。
・なぜ先生がタカシナ宅を訪れたのか
ここが特に不自然ですよねぇ。
父に用があったのか、ノブオに用があったのか。偶然ってこたないでしょうし。
もし父に用があったとしたら、父の様子が違ったことにも関係あるかな?
・ノブオが掴んだものは本当に凶器に足る刃物だったのか
部屋の中に鉈が落ちてるってのも不自然だけど、まぁないこともないかなぁ。
しかし鉈だったとして、10歳そこそこの子供の力で、ガタイのいい親父の額を割れるかなぁ・・。線分ftさんの推理にもあるけど、身長差と傷の位置から考えても、ノブオには無理くさい・・。
・なぜ駐在は先生を何も言わずに保護したのか
ここが一番引っかかってます。
ノブオが殺したとしても、先生が殺したとしても、頭をカチ割って人間を殺したんですから、殺害したほうは血みどろだと思うんですよね。
保護するとしても、タカシナ父が行方不明になった以上、かなりの重要参考人ですよね。というかほとんど犯人確定。にも関わらずそうなっていないってことは、駐在もこの事件に関わっていると見るべきかな・・。
○まとめと推理
傷の位置から考えて、殴ったのは先生と考えるのが妥当とも思えるが、組み敷かれた女性が、その体勢から相手の額をカチ割れるだろうか。これはかなり無理がある。とすると、その位置にナタ(と凶器を仮定して)をブチ込めるのは誰か?
タカシナ父が先生を組み敷いた時に、入口側に頭が向いていれば「侵入者に気付いたタカシナ父が顔を上げた瞬間にカチ割った」と傷の位置にも理由がつけられますし、殺害犯は侵入してきた第三者ってのが妥当な線かと思います。
ストーリーに登場しない誰かが犯人だとしてもおかしくはないのですが、やはり駐在が二人を保護したのが気になってしょうがない。では駐在が事件現場に現れたらどうだろう。マトモな神経の警官が、酔っ払いを制止するくらいのことで死ぬほどの攻撃をするとは思えないが、例えば駐在が先生の父や兄だったら、とっさに近くにあったナタでタカシナ父に殴りかかってもおかしくないのでは?
死体の隠匿についても、180?pもある男性を、女性が1人で運ぶのは無理がある。タカシナ宅から「山ン中」までどれくらい離れていたかは不明ですが、やはり男性が関与していたと考えるのが普通でしょう。
○結論と想像
その日、父は特に機嫌が悪かった(理由不明)。
いつものようにノブオに暴力を振るっていた所に、「先生」が登場(理由不明、ノブオを保護施設などに移す相談などを以前からしていた、とするともっともらしいかな)。
父は「先生」を殴り飛ばし、息子も突き飛ばす。ふと「先生」に欲情した父は、彼女を押さえ込む。ノブオは手元にあった何かを掴み父に襲い掛かるが、あえなくギャフン。気絶。
その時の音を聞きつけるかした巡査が登場、部屋を覗くと、彼のよく知る「先生」がエッチすぎるいたずらを色々とされている!玄関に置いてあった鉈を掴み、部屋に飛び込む巡査!びっくり父!叩き巡査!死に父。
巡査と「先生」、一緒に父を埋める。部屋の掃除も忘れずに。その後二人で口裏を合わせてノブオを丸め込み、更にタカシナ父に関しては酒が祟っての蒸発か何かとして巡査が始末。
すいません、ちょっと長くなってしまいました。
随所にあやふやな点、強引な点がありますが、どうでしょうか?
むた (2005/07/19(Tue) 08:15:52)
線分ftさん、人間関係はあってますが、それだと辻褄の合わない部分が出てきます。
DAPさん、正解です。
怪我は、物語的効果ということにしておいてください。だってほかに虐待を示す方法がないんだもん。
そしてこの怪我から虐待に気付いた先生はともかく少年を保護しようと家に連絡してからいったのです。そのため父は不機嫌だったんですね。で、ただならぬ音に気付いて家の中に飛び込んだというわけ。
駐在さんの関与があるのも正しいです。むた刑事が誰に話すか迷っていたのは実はここにあったんです。
解答編でできるだけ解説したいと思います。では(^^)ノ
むた (2005/07/19(Tue) 20:28:33)
第1章
「タカシナくんはどうかね?」
駐在さんが聞く。
「やっと落ち着きましたよ。彼が犯人の可能性が極めて低いことを説明したんですがね。」
私の答えに駐在さんは驚いている。
「大男の額から脳天にかけて傷をつける姿勢を考えてみたんです。・・・彼の話から腕立て伏せみたいな状態で、首を上げた姿勢ではないかと思います。そこを真正面からたたくとああなるでしょう。」
駐在さんは先を促す。
「タカシナ君は、今に傷が残るほどの虐待を受けていました。その彼の体力で真正面から大男をたたくのは不自然です。・・・おそらく突き飛ばされて鉈を握ったときに気を失ったと考えるのが妥当でしょう。」
「先生はどうかね?彼女は犯人かね?」
試すような声だ。
「腕立て伏せのような状態になったのは彼女の上に覆いかぶさったからでしょう。下から上に鉈を振り上げてもああした傷はつかないでしょう。鼻から額ならまだ可能性はあるでしょうが・・・。致命傷にはならないでしょうね。」
「だとすると・・・犯人は誰かね?」
「・・・・今となっては・・・・。」
ふふと彼は鼻で笑う。
「お茶でもどうかね?」
第2章
「あの日、その男は先生に頼まれごとをしたんだ。」
駐在さんは絞り出すような声で言う。
「まあ、タカシナ君が虐待を受けていたことは狭い村のこと、周知の事実じゃった。でも、あの男が怖くて誰も手が出せなかったんじゃよ・・・。」
「タカシナ君を保護するため、先生は立ち上がり、その男に助っ人を求めたのですね?」
彼は無言だ。否定しないのはそうだということだろう。
「その男は当日県警との電話が長引いてな・・・先生は先に行ってしまった・・・。」
そして5分ほど遅れていったところ家の中はただならぬ雰囲気になっていた。そしてその男は飛び込んで頭を鉈でたたいた・・・。
「君はその男をどうするね?」
私は考える。今さらどうしようもないではないか。もう20年もたっている。彼らは苦しんだのであろう。少年も、先生も、そして東京の刑事にガイコツの写真を見せたその男も・・・。そして真実は
だが私は一言それらしいことを言っておこうと思った。そして言った。
「その男は・・・どの鉈でたたいたのでしょうね?」
駐在さんの顔は石のようだ。扉から入った先生は後ろに突き飛ばされ、その先生に向かう父に飛びついた息子はその反対側に飛ばされたであろう。そして、その少年の手元に鉈があったとしたら・・・。父親は顔を上げた瞬間にたたかれたのだろうか・・・?
駐在さんの顔には笑顔が戻っている。
「いつ、帰るのかね?」
「明日の朝には。」
ごきげんよう、と私たちは別れたのであった。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実在に存在するものを示すものではありません。